2023年度外語祭 スペイン語劇紹介
Así que pasen cinco años  —5年経ったら—

第101回外語祭は本年11月22日(水)から26日(日)まで開催されますが、その中でスペイン語劇は以下のとおり上演されます。是非、足をお運びください。
外語祭ホームページ https://gaigosai.com/contents/

上演日時:11月22日(水)14:00-14:50
会場:東京外国語大学 プロメテウスホール
題名:「Así que pasen cinco años」(邦題:5年経ったら)

当イスパニア会は語劇の活動に例年金銭補助を行っており、本年も30,000円を補助いたします。11月12日の世話人会に代表の方に来ていただき、手渡しいたします。
語劇の代表である礒根知可様よりは以下の案内文をいただきましたので会員の皆様にご紹介いたします。

2023年度外語祭 スペイン語劇紹介  代表:礒根知可 副代表:井手夏希

今回私たちが演じる「Así que pasen cinco años」(邦題:5年経ったら)はスペインのグラナダ出身の詩人・劇作家であるフェデリコ・ガルシア・ロルカ(Federico García Lorca)の作品です。彼は『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスと並んで、 世界で最も有名なスペイン人作家の一人として知られています。一昨年の先輩方が上演された「La Zapatera Progiosa」(邦題:素晴らしい靴屋の女房)や昨年の先輩方が上演された「Bodas de Sangre」(邦題:血の婚礼)をはじめ、「Romancero GItano」(邦題:ジプシー歌集)など様々な作品を遺しています。彼は21歳にしてマドリードに移り、画家のサルバドール・ダリや映画監督のルイス・ブニュエルらと親交を深めました。前述したジプシー歌集の発表により彼の名は世に知られることになり、彼は自ら劇団を設立し古典劇の普及に努めつつも、自らの作品の上演にも力を注ぎます。しかし彼は1936年にスペイン内戦が起こった直後フランコ政権から、そのリベラルな作風から反体制派であるとみなされ拘束された後、38歳の若さで銃殺されてしまいます。フランコ政権下では、彼の死後も彼の著作は発行禁止とされましたが、フランコ政権終焉ののち、再び評価されるようになりました。それから現在に至るまで、彼の作品は世界中で広く愛されています。
 「Así que pasen cinco años」は3部で構成される作品です。以下であらすじを紹介させて頂きます。まず物語は、主人公の青年が5年間思い続ける許嫁をいかに愛しているかを語るところから始まります。彼には、彼を想う一人のタイピストの女性がいるものの、許嫁がいるとしてその申し出を断ります。許嫁から結婚は5年待ってほしいと伝えられていた彼はその約束から5年後、その許嫁のもとへ会いに行きますが、その許嫁は別の男性と恋に落ち、駆け落ちをしていることが発覚します。許嫁に逃げられてしまった青年は、タイピストからの愛を思い出し、その愛を取り戻すべく彼女のもとを訪ねることにしますが、今度は彼女から結婚するのは5年後と告げられます。失意の中にいる彼は家に帰り、彼を訪れたカードプレイヤーたちとある賭けをしますが、それがもたらしたものとは…。
 あらすじを一見すると、この物語は哀れなる青年の恋愛物語のように見えるでしょう。しかし、劇中では夢の中での場面もあり、物語が“現実”と“非現実”の両方で展開されることで、ストーリーに複雑さがもたらされています。また、登場人物には名前がついていません。これは、全ての登場人物たちが欲望や感覚、潜在意識といった、目に見えない内面世界を象徴するためであると言われています。彼らが織りなす会話は時々理解不能であり、何の脈絡もないように見えますが、このような物語の見かけの単純さとは打って変わった複雑さが、物語に混沌とした雰囲気をもたらし、ロルカの生きた怒涛の時代を生き生きと私たちに伝えてくれているのだと思います。
 ロルカは演劇作品の根幹部分に時間・愛・死を据えてきました。この作品もまさにそれに当てはまり、全ての要素が物語に関係しています。これらの要素を通じた存在の脆弱性を、本作品は物語全体で私たちに訴えかけてきます。これを分かりやすく観客に伝えることは容易ではありません。ですが、逆説的に言えば、分かりにくいのが正解であるとも言えるかもしれません。実は、彼はこの作品を「未来の演劇」、「表現不可能な演劇」と位置付け、従来の本国の劇に対する反発を表そうとしていました。ここでの「表現不可能」とは観客側の解釈が難しいというニュアンスを強く含んでいます。彼はあえて捉えにくい演劇にすることで、当時の無秩序な世界を表そうとしたとも考えられます。語劇経験が殆どない私たちにとって、本作品を作り上げることはある種の挑戦でありますが、ロルカにとっても、この作品は彼の劇作家人生の中における、大きな挑戦であったと言えるでしょう。また、 “5年”という時間がこの物語において強調されていますが、興味深い事にこの物語の作者であるロルカは本作品を完成させた“5年後”に亡くなっています。つまり、この作品は彼の数多くの作品の中でも、特に作者自身との繋がりを強く感じさせるものであります。
 先ほど述べたように、この作品を理解することは容易ではありません。ですが、作者自身にとっても挑戦的な作品であったこと、彼の内面を表しているということを踏まえると、本作品は私たちにどこかロルカへの親しみや繋がりを感じさせてくれます。故にこの作品を演じることで、彼の内面に近づき、怒涛の時代を生きた彼の人生、そして彼の主張を体験的に感じ取ることができるのではないかと考えております。観客の皆さんも、私たちと共に彼が残したメッセージについて思いを馳せながら見て頂けますと幸いです。
 以上、作者についての概要、作品のあらすじとその魅力についてご紹介させて頂きました。是非劇場に足を運んで頂き、温かいご期 待・ご声援を頂けましたらと思います。どうぞよろしくお願い致します。今回劇を作っていくにあたり、イスパニア会の皆さんを含め、沢山の方々のお力添えを賜りました。この場を借りて感謝申し上げます。